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2012年資本主義経済大清算の年になる 2012:The Year Capitalism Unravels [D1.政治・経済・社会]

2012年 資本主義経済 大清算の年になる

2012年 資本主義経済 大清算の年になる

  • 作者: 高橋 乗宣
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2011/11/11
  • メディア: 単行本
  隠れ基軸通貨となった円
 1980年代前半、レーガン政権下のアメリカでは、前政権から引き継いだ高インフレ抑制政策として、厳しい金融引締めを実施していた。金利は2桁に達し、世界中のマネーがアメリカへ集中し、ドル相場は高めに推移した。ドル相場の乱調に歯止めをかけ、「秩序あるドル安」をめざし、ドル安に誘導することがG5で合意された、これが1985年の「プラザ合意 Plaza Accord」である(円は260円から236円になった。)
 日本は、内需拡大を目指し、金融大緩和作戦の幕が開いた、それは、実際は内需拡大より、不動産価格の高騰などによる日本経済のバブル化を進展させた(この時期に円の隠れ基軸通貨円の萌芽が形成される)。
 円高を背景に日本企業が次々と生産拠点をドルペッグ制をとっているアジア諸国に移しだした。この資金移動の動きはアジア新興諸国の成長に大いに貢献した。
 1990年代初期に、バブルが崩壊し、Japan Moneyのアジアへの流入はひとまず途絶えた、日本は「失われた10年」へなだれ込んでいく。1995年の1ドル80円が1998年には140円まで落ち込んだ。行き場を失った円は、証券投資へと移動する。低金利・低為替の日本で安く調達した資金をドルに換え、そのドルで、ドル連動制を敷いている高金利のアジア諸国に投資して利ざやを稼ぐ、いわゆるキャリートレードである。これは成長資金ではなく投機的短期資金である。
 この投機的短資が東アジアの奇跡を東アジアのバブルに変身させた。1997年から、バブルは崩壊しだし、東アジア諸国はドルペッグ制を守りきれなくなり、彼らの通貨は暴落する。日本も不良債権処理問題が出て、ヘッジファンドに預けていた低金利のJapan Moneyは日本国内へ大逆流し始めた。
 「失われた10年」からの脱却を目指して、日銀はゼロ金利政策や量的緩和政策など、今で言う非伝統的なき金融政策を次々と繰り出し、35兆円という円売りドル買い介入にも踏み切った。日本の輸出企業に有利となる円安方向に誘導するのが狙いだったが、介入に使った円資金を市場から吸収するいわゆる「不胎化」政策を実施しなかったため、その分国内の通貨供給量が増えて、金融緩和効果もさらに高まった。こうして市場に供給された円は投機マネーの「タネ銭」になった。世界の投資家は超金利で円を借りて、より利回りの高い国の通貨に換えて利ざやを稼ぎ、さらに株や債券などの金融商品や、不動産、原油などの商品を買うという動きに出た、「円キャリートレード」の再燃である。これがリーマンショックの根元でもある。
 債権大国の通貨が動くとき、世界が動く。表基軸通貨国は衆人監視のもとで自他ともに役割や責任を認識した状態で動くだけに、自ずと行動には制約がかかる。一方、隠れ基軸通貨には表だった責任がない。それなのに力は強いとあって、行き過ぎると思わぬ大きな影響を与えやすい。それがプラス面で働いたのが東アジアの奇跡の場面であり、大きくマイナスに働いたのがアジア通貨危機とリーマン・ショックの時だった。
 円という通貨は巨大な力を持っているのに、日本はまだまだその自覚が足りない。でしゃばらないのは美徳ではあるが、それは無責任体質にもつながりがちだ。意図するとせざるとにかかわらず、史上初の「隠れ基軸通貨国」となっているのだから、それらしい通貨責任を意識していく必要がある。
 一国の国際収支は経常収支と資本収支に大別される。輸出産業が中心だった日本は、長年、経常黒字大国だったが、現状は少子高齢化の進行で、モノを消費する人の方がモノをつくる人より多くなりつつある。このまま行けば、経常収支に含まれる貿易収支が恒常的に赤字化することになる。円高が進めば、この流れはさらに加速する。
 一方、経常収支の内訳を見てみると、貿易収支のほか、海外への証券投資や直接投資の結果として発生するカネのやり取りを表す所得収支がある。日本国内は成熟化が進んでいて投資機会が必ずしも多くないため、日本の対外投資が拡大していくのは確実だ。このため、日本の在外資産が増えることも確実である。在外資産が増えれば、その資産が生み出す利子や配当やその他の報酬も増える。これが所得収支の黒字拡大要因になる。今後は、この所得収支の黒字の規模が経常収支の帳尻がどうなるかを決める主因となっていく。それが債権大国すなわち資本輸出大国の国際収支構造だ。
 日本は、成長経済から成熟経済に転換し、債権大国として生きていくことを選択するのが、今後どの国もやったことのない、グローバル時代の共存共栄という新しい日本の姿である。
 
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