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企業内学習入門 The Business of Corporate Learning [人事3-人材育成・グローバル人材・評価]

企業内学習入門――戦略なき人材育成を超えて

企業内学習入門――戦略なき人材育成を超えて

  • 作者: シュロモ ベンハー
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2014/07/15
  • メディア: 単行本
 訳者の高津尚志先生より頂戴しました。偶然にも昨年、原書を知人よりいただき読んでいましたが、改めて日本語訳を読み理解が一層深まりました。
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 しかしこの本は、人事には耳が痛い話ばかりですね。人事の仕事は、工場などでの工員の管理といういわゆる「労務管理」が始まりだと思います。いわゆる「少数のホワイトカラーと多数のブルーカラー」という職場だったわけです。そこでは、労働力の確保、管理、生産性の向上という事に重点がおかれました。その後、工場は海外へ移転され、ホワイトカラーばかりの組織では、より高度な人的資源管理(Human Resource Management)が必要となってきました。しかし、人事のやり方は、科学的にはほど遠く、旧態依然として、新しい時代の企業の要請には応えられていないという話です。
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 特に自社のラーニング(研修)部門の業績に「非常に満足している」というビジネスリーダーは、全体の17%という(2004年調査)。また、2012年の調査によると、過半数のラインマネージャーがラーニング部門を廃止しても従業員の業績に変化はないだろうと考えている結果がでました。これは由々しき問題です。こういう認識にも関わらず、企業は決して少なくない何十億ドルのお金をこのラーニングに毎年投資しているわけですから。
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 この問題の原因は三つあります。
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1)研修効果測定:研修の効果が測りにくいので、結果として測定できず、研修が効果があったのかどうか研修担当者もわからない。不完全なカークパトリック法しか今のところ方法がない。四分の三の企業は研修のビジネスへのインパクトを査定していない。研修担当者は、その効果がない事が立証される事を恐れ、それを測定するモチベーションもない。ラーニング・ブランディングを行なっている企業は15%のみ。
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2)研修担当者の質:仕事ができない人が人事に回される傾向がある(キャリアの墓場)。また、一般的にデータなどの数字に弱いし、ビジネスの理解度(財務の知識)も低い(CIPDの調査によれば、人事スタッフの6割にあたる人々が「人事部門はビジネスの課題に対する理解をもっと深める必要がある」と考えている)。行動心理学などを利用する能力がない。最新メソッドを採用したがらない、ラーニング部門でイノベーションを支持する者は12%しかいない。ある調査では、人事のスタッフの42%が自分は同僚よりもビジネス感覚に欠けると思われていると答えたという。
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3)研修担当の社内地位:1)と2)により、研修担当の地位が低く、よって、優秀な人はそのポジションに就きたがらないという悪循環に陥っている(人事全般にも言える)。
  CLOのキャリアパスの調査(IMD 182人):平均年齢48歳、男性65%、大半は人事出身。44%が他社から招聘されている。つまり自社の人材プールの厚みが薄い。彼らの将来は、自社の人事に戦略的な仕事がないので、また他社へ移るか、コンサルタントとなって独立する。
 よって、企業に研修に関する知識の蓄積がなくなり、コンサルタントに奪われる。
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 ということで、1990年代初めに登場した「学習する組織」という概念は、企業内学習を変革することができなかったと述べています。これはショックですね。この話は、欧米の話です。欧米は日本と違い社員はすぐやめるのでリテンション施策が日本より重要であり、人事の専門性は日本より進んでいると言われているのに、このあり様なわけです。
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 最近の企業内学習での時間的制約は大きい、ある調査によると、研修への誘いを断った人の40%が「忙しすぎる」という理由だった。その解決策の一つがe-learningであったが、それほどパワフルではなかった。今は、m-learning(モバイル)が注目されており、iTunes Universityのようなものに期待が寄せられている。
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 ラーニング部門の人材欠如の問題解決のための方法として、アウトソーシングや学者をCLOとして招聘する方法、また、研修内容とビジネスニーズの整合性を取ることを目的として、営業部門などのビジネスリーダーをラーニング部門へ招聘するというケースも増えている(日本の上場企業の人事担当役員もビジネス側から就任するという傾向が最近特に増えているそうです)。しかし、これはやや即興的な臨時措置だと著者は言っています。人事の専門性のないビジネスリーダーが必ずしも成功するとは限らないからです。
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 ラーニング部門はとにかくデータを駆使しなければならないので、各チームに少なくとも一人はデータ編集の専門家を配置しなければならない。コンサルティング能力も必要。欧州経営開発協会が提供するCLIP認定評価は、厳格な評価と相互審査プロセスによってラーニング部門を認証するシステム。サプライヤー管理に競争原理を取いれるのも重要。
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 企業は、ラーニングのガバナンスをしなければならないが、やっているのは全体の20%に過ぎない。四半期ごとにエグゼクティブチームは、研修の効果などをレビューすべきである。
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  キャップジェミニ・グループは、500人以上のファシリテーターを養成し、企業内ユニバーシティで、メインの仕事のプラスアルファという形でファシリテートしている。そのためのフレームワークや四段階の等級制も導入している。
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  ディズニー・ABCテレビジョングループ:ビジネス側からニーズを拾い、37のプログラムを内製化し、従業員がそれにレーティングやコメントを書き込めるようにしたり、告知をするなどのマーケティングを行い、受講率を飛躍的に上げた。
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  こうしてみると、21世紀は、人事部、特に研修を担当する部門にとっては、受難の時代なのだろうと思います。CEOが、組織・人材開発に理解が深い場合(創業者の場合が多い)、人事施策が強化され、人事の活躍度合も大きくなります。しかし、かなり専門性を持っていないと長い経営経験をもったCEOからの要求を満たすことはできないし、言われた事だけをやるという事態になるやもしれません。
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   逆に、CEOがその理解が浅い場合は(ビジネス側から抜擢された新社長に多い)、それこそ人事の出番で、その専門性でCEOを補佐すべきなのですが、CEOの理解が浅い分、人事施策の優先度合いが他のビジネス案件より低くなり、人事施策が実行されにくくなったり、CEOの信念の入っていない骨抜きの施策になってしまう可能性が大きいわけです。この場合は、CEOを教育するくらいの覚悟と専門性が要求されます。
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   また、最も悲惨な事は、CEO(これも創業者に多い)が”ブラック”的なやり方で経営を推し進める時に、ややもすると人事は、それを補正するどころか、その手下になってしまう事です。「半沢直樹」や「ショムニ」のような企業もののテレビドラマにデフォルメされた人事部長がよく登場しますが、あんな感じですね。
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 どちらの場合も、ビジネスを理解する力は必須になるので、ビジネス経験のない人事部員は、今後の活躍はチャレンジングなものとなるでしょう。ということは、ビジネス側が受け入れてくれるであろう20代の人事部員は全員2,3年のビジネス側の経験は必須でしょう。一度、そういう経験をしていれば、30代でもう一度、ビジネス経験を積めるチャンスも訪れます。既に30代後半以上になっている人事プロパーの人は、少なくとも財務や統計の知識は学習したりして、自分の人材開発プログラムを自分で作成すべきなのでしょう。また、人事部員をビジネス側に出したら、ビジネ側からも人事に人を異動させるべきです。ビジネス側人材も将来、シニアな経営のポジションにつく場合、人事の経験は役に立ちますし、ビジネス観点で人事施策をつくれますし、他の人事部員にいい刺激にもなります。
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ホーソン効果:単に周囲から注目されるだけでパフォーマンスがアップする可能性があること。
 
  
76 books in 2014

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